自分だけの、自分のためだけにある、自由な撮影環境が欲しかった。

フリーになって、もう、５年も経ってしまった。

仕事の方もフリーになる前から見れば、恐ろしいくらい順調に来ている。

今になっては笑い話になりそうだが、フリーになるに当たって機材を相当買ったわけだが、実は、そのカメラ関係の外箱は全部とってある。なぜか？いつ仕事がなくなっても良いように、そんなときに備えて機材が高く売れるようにと、思ったからだ。
おかげさまで、そのとってある外箱も活躍しないまま、機材の減価償却である５年が過ぎようとしている。

５年前、フリーになることになった僕は、当座、事務所として、当時すでにフリーになっていた女房が使っていた原宿の事務所に転がり込んだのだ。最初の２，３ヶ月はその事務所で物撮りもやっていた。たったの六畳ほどのワンルームだった。スタイリストをやっている女房の見栄で原宿に事務所を持ったのはイイが、当然家賃が高いので、１人で最低限の広さのつもりで借りたものだ。そこに、僕が転がり込んだのだから、、、、もう、それはすごい状態で撮影したものだ。セットを組むと、まるで部屋はジャングルジムのようになっていた。何かを取ろうにも、アクロバチックな体勢で潜り込んでいかないとたどり着かないのだった。

その後、僕も最低限の物撮りが出来る程度の物件を探し、運良く原宿にしてはかなり安い物件に移った。そこも、当座の数年のつもりだったが、原宿という立地と家賃の安さ、車からの荷物の出し入れのしやすさから、そこ以上のものはなかなか無いと思って、ついつい五年もの間、そこに居てしまった。

さすがに、ここ二，三年はクライアントさんの立ち会いの撮影も増えてきたし、狭いところで撮影するのも限界になってきた。最初は「狭くても工夫さえすれば大きいものでも撮れる」と気合いはあったが、４０を過ぎるとその気合いも薄れるものだ。

もっと広いところで、思うように、好きな時に、自由に写真を撮りたい。

東京の都心で事務所を持つには恐ろしいくらい金がかかる。

原宿の事務所は賃貸だったが、月家賃が１１万だ。２Ｋで、裏原宿にある物件としてはかなり安い方だろう。ま、中身も相当ひどかったが・・・この家賃に、電気などの光熱費や、電話代、それに車の駐車場が月５万円・・もろもろで月に２０万くらいかかっていた。

これより広いところに移ろうと思ったら、しかも、撮影が出来るくらいのワンルームの広いところと言う限定だと、月家賃どのくらいだろうか？家賃だけで３０〜４０万はするだろう。もちろん、山手線の外側に行けばどんどん安くなるのは分かっている。でも、この業界で仕事をしていくのなら、山手線の内側に拠点を持っていないとダメだと個人的に思っている。特に僕のようにフットワークの良さを売りにしていると、なんとか県じゃ、ダメなのだ。

広いところには行きたい、でも、月の支払いが多いのは・・・頑張れば払えると思うが、精神的にきついと思った。いったい何のために毎日毎日休みもせずに仕事するのか？それが家賃のためだと、自分に対して頑張る理由には出来なかった。

不動産屋の前の張り紙を何分も立って見ている日が続いた。

あるクライアントへの納品の帰り道に電柱に貼ってある捨て看板が目に入った。

「浜松町　徒歩７分　１６坪　１９８０万円」

「へ〜、やっぱ、バブル後でずいぶん安くなって居るんだな」と思った。
数年前、浦安のマンションを買ったのだが、それから見れば、この都心で駅から近くてこの値段はかなり驚きだった。
丁度、時間があったので、冷やかしで見てみるかくらいのつもりで見に行ったのだ。確かに駅から７分だった。ビルの外観はかなり古いが、まだ大丈夫だろう。ビルの３階だが、エレベーターも付いているし、しかも、各フロア一軒のみという構成も良い。間取りは元事務所として使っていたので、１６坪丸ごとのワンルームだ。なんと、ユニットバスも付いている。天井は低いながら、横幅はフルサイズのバックペーパーが余裕で吊れるくらいある。

「結構良い感じダナ〜」

浜松町はクライアントもあるし現像所も近い。自宅である浦安からも近いし、、、

いいかもしれない。

でも、「買う」というのはどうなんだろう？？？すごく怖かった。賃貸だったら入って気に入らなければ、また引っ越せばいいと言う気楽さがある。買うとそうはいかないし・・

さて、カメラマンがスタジオとしての物件探しにはいくつかの条件がある。

• アクセスが良いこと。＞駅からも当然ながら、車でのアクセスも良いところ。しかも、高速の出入り口が近くにあればなお吉。
• エレベーター付き
• 駐車場が近くにあること。
• 部屋は広い一間
• 天井高は出来るだけ高く
• 上下階に人が住んでいないこと。

以上が理想だ。
普通のマンションは、もう無理。良くカメラマンが自社スタジオを作っているのは、ビルの地下階だ。これは以上の条件をかなり満たす。ただ、そう言う物件はなかなか表に出てこないのだ。足で探して歩くか、よほど運が良くないと。

浜松町のその物件は、天井高の項目を除いては、ほとんど理想的だった。天井は張ってあるのを抜いて、上のフロアまでぶち抜けば少しは高くなる。でも、賃貸でそれをやると、高いものに付く。いつか出る日が来た時に現状復帰しなければならないから。でも、「買う」のなら・・そんなこと考えなくて良いのだ。

夜も眠れないくらい悩んだ。浦安の家を買う時だってこんなに悩まなかったのに・・

「買おう」と思った。

もう４０だし、この先、他に商売替えはしないだろう。だったら、写真にすべてを投げ打っても良いんじゃないだろうか。幸か不幸か、僕たち夫婦には子供は居ないし、女房も働いている。今ならまだがんばれるだろう。

金策は相当大変だったが、なんとかした。不動産屋には粘って値下げさせた。中の改装は元建設屋のオヤジに頼んで、安くやってもらった。それでも総額２０００万。でも、月家賃２０万払っていると思えば１０年以内で元は取れるサ、と自分に言い聞かせる。捕らぬ狸の皮算用・・・(^^ゞ　良い方に考えれば、未来は開けるけど、悪い方に考えると一歩間違えば首つり自殺か？・・・・人生、一寸先は闇。

３月２２日に向けて、今、内装工事のまっただ中。

天井は少しでも高さを稼ぎたいため、上の階の床板まであげる工事をやった。

そのままでは、ベニヤむき出しなので、黒のペンキを塗った。これは、自分で土日にやってしまった。＞かなり首が痛い。。。安くあげるために自分でやったのだが、めちゃくちゃ大変な作業だった。

床は元々はカーペット張りだったのをフローリングに変えた。

床張り替え	天井の張り替え
左側が普通の天井。それを抜いて上のフロア板まで上げる。そのままだと断熱材であるアスベストが吹きつてある状態でむき出しになってしまうので、それを耐火パネルで覆うのだ。	ベニヤ色の部分だけ上に上がったことになる。たった数センチだが、無いよりましだ。この数センチのためだけに、数十万円の工費がかかった。
キッチン
2001/3/18　エアコン取り付け	2001/3/18　エアコン取り付け

３月２０日　引っ越し。

スタジオも出来たし、また、頑張らないと・・・でも、ここに来て仕事が減る傾向でそれがすごく気になる。ほとんど無一文だしな〜〜。

以前以上にいい環境で撮影できているので、とうぜん、それは写真に反映されていると思う。同じものを撮っても、前より良いクオリティになったと自分でも感じる。

皆さん、お仕事お願いしますネ〜〜。