Ｉさんの思い出

2002/3/21

　スタジオを持った。

自分のスタジオを持つのは、この世界に入ってからずーっと僕の夢だった。

好きな時に、好きな音楽かけて、好きなものを、好きなように撮る。誰にもじゃまされずに、誰にも気兼ねせずに。

その夢が叶うことになった。
今週、ようやく内装工事も終わり、引っ越しも終え、夜静まったスタジオで１人で居ると、柄にもなくいろいろなことを考えてしまった。

フリーになった時、全然金が無くて、だけど、機材が必要で、よく粗大ゴミ置き場から使えそうな物を拾って帰ったこと。だんだん仕事していって、入金がある度に、その金で次々と機材を買ったこと。スタジオにあるすべての物に、そんな思い出があった。

「よくここまで来れたな・・」

正直、そんな気持ちだった。

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Ｉさんは、僕がこの世界に入った時の会社のボスだった。つい５年前まで僕はその会社にいたので、１５年間、Ｉさんの下でこの世界のことを学んだのだ。

今から１５年くらい前だろうか？そのスタジオの設立１０周年記念パーティーをやることになった。当時、今にして思うと、バブル期で景気が良かったのだろう。１００人くらいのクライアントや、業者を集めて、東京會舘を借りて、そのスタジオとしてはかなり盛大にパーティーをやったのだ。

パーティーが始まり、Ｉさんの挨拶のところで、いきなり、ホントにいきなり、Ｉさんは壇上でマイクを握ったまま、号泣してしまったのだ。

今でも、その光景は僕の目に焼き付いている。

そのスタジオの成り立ちは、もともと印刷会社の撮影部という部署から別会社を立ち上げたという物だった。親会社の印刷屋からの仕事の撮影段階をやるというポジションである。今でもそうだが、印刷屋さんからの仕事は、広告と言えど、単価が非常に安い。しかも、その親会社のために安くやることが使命みたいな会社だったから、利益など出る分けないのだ。

Ｉさんはそのスタジオの責任者として、設立時から、親会社の社長に「早く利益を出せるように」「親会社のお荷物にはなるな」と言われ続けてきたのだ。

そして１０年目、スタジオも軌道に乗り、利益も出て、こういうパーティーが開けるようになったのだ。その思いが一気にスピーチの時にきわまってしまったのだろう。

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その時の気持ちが、今、僕には分かる。たぶん・・・

まだまだＩさんには追いつけないし、仕事していけばいくほど、その大きさを思い知らされる。

だけど、一つずつ、、いつかは追い越せるはずだと、そう思っている。

スタジオを持てたのは、まだ初めの一歩の方。これからが勝負かな。

　

　

　

　

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